のストーリー

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主人公

使用楽器:GS洋銀製

フルート歴:38年

主な演奏場所:フルートアンサンブル

フルートを吹いて30年が経とうとしていた頃、当時吹いていた総銀製フルートの音がどうしても好きになれず練習量も落ちて「何の為にフルートを吹いているのか」というモヤモヤした気持ちになっていました。そんな時、アンサンブルのメンバーでも際立って美しい音を出す仲間から「サクライフルートを試奏してきたのだけど、とても良い楽器だった」と聞いたのがサクライを知ったきっかけです。前々からサクライの噂は耳にしていましたが、実物に触れた事はないし、音も聞いた事はありません。

いつもだったら聞き流すような世間話ですが、その後サクライの詳細を幾度も訊ねていたのは自分の中で何かを打開したいと思っていたのかもしれないし、美しい音を出す仲間が認めたサクライフルート。かなり気になっていたのでしょう。 しかし、注文するまではどちらかというと積極的では無かったかと思います。

何人かの仲間たちが何度も工房へ行ってきては「とにかくすばらしいロケーションにある工房。ぜひ行くべし。」と言うのを聞いて、じゃあ行ってみるかとなりました。訪れてみると仲間たちの言ったとおり、何度も訪れたくなる気持ちになり桃源郷のような自然に触れていると、自分も自然に振舞えるようになり気持ちが楽になりました。

幸一郎氏からもたくさんの話を伺い、その中でも「数学も知らずに楽器を作ろうとする人たちがいる」という言葉に膝を打ったのを今でも憶えています。 正直なところ、試しにと思ってGS洋銀製を注文したのですが、約1年後にGS洋銀製が届いて音を出したとき「間違いではなかった」と確信しました。

仲間内で最初にサクライを買った人が「もう1本同じのが欲しい」と言っていましたが、まったく同様に感じました(実際、私は数年後に同じGS洋銀製を注文しました)。 その後の満足度は100%です。じゃあ、楽に吹けるのかと問われればはっきりと「違う」と答えるでしょう。決して簡単な楽器ではなく、体調や気分が音に表れてしまう。自分自身を整えなければ良い音が出ません。私のGS洋銀製は抵抗感が強くて「吹きがい」があり、幸福感を感じます。私だけの私のフルートです。

新しい人たちとフルートの合奏で遊ぶのがとても楽しみで、私の楽器の事を聞かれて色々答えて、最後に値段を言うと驚かれます。「信じられないでしょう!」と私も言っては、「私は良い楽器を買った」とひとり悦に入っています。

私はフルートに出会った学生時代の時に最愛の兄を突然亡くしました。そのぽっかり空いた心を埋めてくれたのがフルートです。意気消沈していた時に、ただひたすらフルートを吹くことで精神的に助けられました。

いつの日かバッハのロ短調ソナタを吹けるようになることが夢でした。今でもフルートを吹き続けているのは、きっと兄が聴いてくれていると思っているのかもしれません。

私にとってフルートはかけがえのない存在です。だからこそ、本当に自分が気に入った楽器を選ばなければと強く思うようなりました。フルートとは40年来の付き合いですが、フルートに出逢った頃の気持ちにさせてくれたサクライをずっと吹いていきたいと思っています。

サクライのユーザーはとてもサクライを愛しています。サクライの灯を絶やさぬよう、サクライの信念を曲げぬよう制作し続けていただきますようお願いいたします。

 

「サクライ仲間」

桜井秀峰

仲間というのは本当に良いものです。ただの慣れ合いではなく、厳しくもあり、優しくもあり、永く付き合える仲間に出逢えている方たちと接すると、私たちも仲間の一員になったように思えてしまいます。

とても真摯で真っ正直、というか最年長でありながら一番純粋。子どものような厳しさを持っている方ですので、好みに当たれば満面の笑み、違えばはっきりと「No!」。

GS洋銀製を制作させていただく時の私たちの想いは「好みの音」をどう表現するか。かといって、何かを大きく変えるわけではありません。想いながら制作するだけです。奏者の音を聴き、お話を伺い、目指す方向性や好みなどを感じとって制作に臨みます。細部にまで注意を払い、疑問や不安を取り除き、奏者が心から安心して演奏に向き合える楽器を制作する事が最も大事だと考えています。

こんな事がありました。2本目のGS洋銀製の完成間近、いつものように仲間たち数人で調整に来られた時、試作していた木製リッププレート頭部管を試奏していただきました。好みとは正反対のタイプで、最初は戸惑っていらっしゃいましたが少し吹かれていると「これは良い!!」と感じられたようで、「この頭部管にしてくれ」と。試作でしたがこちらも快諾いたしました。その時に「1本目のGS洋銀製との明確な使い分けが出来るので、お互いの楽器の為に良い相乗効果が望めるかもしれない」という私なりの想いもありました。しかし、完成から数カ月後「とても良い音だけど、どうもしっくりこない」というご連絡がありました。お話を伺い、こちらからもいくつか質問をさせていただきました。その時に「閃き」がありました。受話器を置いた直後、新たな頭部管の制作を始めました。「閃き」が新鮮なうちに制作した頭部管を完成させ、数日後に送りました。奏者の元へ届いた当日にお電話がありました。「これです。この音です。この音が欲しかったのです。」

試作した木製リッププレートのおかげで、より明確になった方向性。今ではご自分の身体の一部のように自由になり、心から演奏を楽しんでいらっしゃるように見えます。

「閃き」から確信に、そして形にする事も私たちの仕事だと改めて想う事が出来ました。

 

ストーリーリスト

楽器の詳細