のストーリー

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主人公

使用楽器:GS洋銀製インラインカバード

主な演奏場所:オーケストラ、吹奏楽団

私がサクライフルートに出会ったのは、2004年の東京にある某楽器店の店頭でした。名前程度しか知りませんでしたが、そこにあった中古のサクライGS洋銀製を試奏させてもらいました。吹いた瞬間、「楽器がどこに息を送れば良いか教えてくれる」ような不思議な感じがしました。「これだ!」と思った私は興奮覚めやらぬ想いで、工房を訪ねて直接制作をお願いすることにしました。 工房には突然の訪問だったにも関わらず、快く出迎えてくださった桜井幸一郎さんと息子さんの秀峰さんが対応してくださいました。

色々なお話をお聞きしフルート制作に対する飽くなき探究心、歴史的工芸品等からインスピレーションを得た様々な工夫、そしてそれを作り出すことができる技術の鍛錬に対する姿勢に感銘を受けました。

「この人だから、この楽器ができた・・・。」

試奏した時に楽器から感じた、凛とした存在感は正しかったのだと思いました。「どれだけ時間がかかっても良いから、制作者として納得のいく楽器をお願いしたい。」そう思い、見た目の美しさ、それから響きの軽さ・均一性を重視し、GS洋銀製「インラインカバード」の制作をその場でお願いしました。私の依頼に対し桜井さんは本当に快く引き受けてくださり、「任せてください」と心強い言葉をいただきました。

1年強過ぎた頃、待ち遠しかった楽器が届きました。改めて吹いてみると、軽く美しい響き、明瞭なアタック、今まで吹いていた楽器とは全く異なる方向性でしたが、自分が楽器に対して求めていたものがはっきり自覚できるようになりました。そこには、 最近の楽器とは違う世界が広がっていました。

サクライフルートの第一印象は「自分を写す鏡のような楽器」。体調が良い時、心が軽快なとき、サクライは息のポイントを楽器が教えてくれ軽快に響きます。体調が芳しくない時、心が沈むとき、サクライは私に試練を与えます。同じ楽器がこうも違う音を出すのかと驚くと同時に、楽器の音は楽器そのものではなく、自分自身が創りだしていくものだということを実感しています。

サクライは奏者を選ぶのではなく、奏者の心や身体の状態をただ、ありのままに写しだします。サクライには嘘をつけません。奏者の状態とは無関係に鳴る楽器ではない故、 ある意味、非常に厳しい楽器であると言えます。一方、自分の状態をありのままに知り、自分を成長させたいと願っている人にとってサクライはとても頼もしい、信頼できるパートナーになると思います。 日常において、楽器を嗜む時間が少なくなっている毎日ではありますが、自分自身の成長を止めることなく、信頼のおけるパートナーとしてこれからもサクライを吹いていきたいと思っています。

 

「初めのインラインカバード」

桜井秀峰

カバード(キィカップ)=オフセット(左手薬指が前に出ている)という形が固定化したのは、いつ頃からなのでしょう。カバード=初心者という図式も少なからずある日本において、リングキィも使えるがあえてカバードを選択する方は強い信念を持っておられると感じます。この方の場合は、豊かな想像力も加わり「インラインカバード」という今ではあまり見られないスタイルに行き着きました。インラインならではのすっきりとした見た目、スムースな音の繋がりなどを考えると「なぜ今まで積極的に制作してこなかったのだろう」と思わざるをえません。「目から鱗が落ちる」とはまさにこの事で、ご依頼をいただいた瞬間から新たなスケールの方針を思い浮かべ、求められている音色に対する素材の選択や細部の造作をデザインし、全体像をつかみました。 制作過程では大きな方針変更もなく、最初に抱いた「イメージ」を大切に完成まで走り抜けました。完成後に試奏をしてみるとイメージしていた以上の成果を得られたと思います。

新しい事に挑戦する時は不安になる事もあります。うまく進まないので今までのセオリーをなぞりたくもなりますが、大きな成果を得ようとするのであれば「最初のコンセプト」に立ち戻る事を心がけています。大きな成果は私たちにも必要ですが、「奏者にとって最高の楽器」という成果が最も大切だと想っています。 「インラインカバード」はその後、総銀製や木管製でも制作させていただきました。それもこの「GS洋銀製インラインカバード」を最初に制作出来たおかげです。私たちが新しい作品を制作出来る「きっかけ」を与えていただいた事に心から感謝しております。

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